伽藍エッセイ<9>
あれも欲しい。これも欲しい。
我の家に水道が入ったのは私が小学校六年の時だった。 それまで離れの井戸から台所にある陶器の大カメに水を運ぶのは私と三つ上の兄の仕事だった。 水道が入った日、母は一日中上機嫌で洗い物ばかりしていた。 裸電球から蛍光灯に変わ…
我の家に水道が入ったのは私が小学校六年の時だった。 それまで離れの井戸から台所にある陶器の大カメに水を運ぶのは私と三つ上の兄の仕事だった。 水道が入った日、母は一日中上機嫌で洗い物ばかりしていた。 裸電球から蛍光灯に変わ…
私は大声を出すのも聞くのも嫌いである。 だから、いつもボソボソ話し、クスクス笑う。 声の大きい人に悪い人はいない。男らしい人は声が大きいと言うから、声の小さい男は、肩身が狭い。 例え、悪さが見つかり、激高し…
男はどんな女でも、朝晩、毎日見ていれば、気にいらないところも出てきて憎くもなる。女にしても、それは同じであろう。 そんな結婚生活は空しいものだ。お互い別々に住んでいて 時々会うという通い婚こそが、年月を経ても飽きることの…
初孫が出来て一年がたち、暮らしが一変した。 一週間おきに我が家に来るのだが、それがどうにも待ちきれない。 会社では社員が机の上に家族の写真を置いているのを見ると、そういうものは、密かに忍ばせるのが男の美学だと冷ややかに見…
息子と歩くと、擦れ違いざま女性の視線がチラッと隣の息子へ向く。 妻と歩いても妻を見る女性はいても私を見る人はいない。まるで私は存在していないかのようだ。 所用で東京へ行き電車に乗った。車内はすいており、ゆったり座れた。 …