百名伽藍に雨が降る日、何をすることもなく、ただ海に降り注ぐ雨を眺めて過ごす。
目の前に広がる海。その微かに泡立つ海面をぼんやりと眺めながら、波と雨の音が織りなす静謐な調べに耳を澄ます。
時折、雨が運ぶひんやりとした風が肌を撫でる。雨脚が更に強まると、百名伽藍の琉球赤瓦を滑り落ちた雨が、雨樋のない軒から一斉に流れ落ち、雨のカーテン越しに霞む海を眺めている趣になる。
雨は館内のあちこちに群生するクワズイモの巨大な葉にも音を立て降りそそぎ、大粒の水球となってコロコロと地面に転がり落ちる。館内の小さな森の植物達も匂い立つ様に息を吹き返し、雨に濡れて輝きを増す。
百名伽藍に雨が降る日、いつしか心身は解きほぐれ、懐かしさにも似た、深い喜びが満ち溢れる。